オープンソース開発者は自身のキャリア形成にあたってどんなリソースや機会を活用しているのか ―2024年6月から7月にかけてLinux Foundation ResearchとIntelが約300名の開発者を対象に行った調査「オープンソースソフトウェア開発者レポート 2024年版」が10月から公開されている。レポートには、オープンソース開発者がキャリアアップのために習得すべきと思っているスキル、参加しているイベント/コミュニティ、キャリア形成における優先事項など、2024年現在のオープンソース開発者のリアルな声が統計としてあらわされている。
本レポートはLinux Foundationに加入するメンバー企業/組織(1600社超)を中心に332名の調査対象者から集められた。対象者(回答者)は「開発者、またはソフトウェア開発チームの管理者のいずれかで、ソフトウェア開発に関わるIT職に就いている」「フルタイムまたはパートタイムで雇用されている(自営/学生含む)、または失業中でIT職を探している」という基準を満たしており、また回答者が所属組織を代表して質問に対して正確に回答するのに十分な専門経験をもっていることも事前に確認されている。
日常的にオープンソースに接する機会が多い開発者を対象にしている調査だけに、全体の96%がオープンソースソフトウェアを日常的に利用、その内訳は「オープンソースを利用し、かつ貢献もしている」と回答したのが49%、「利用はするが貢献はしていない」は47%、「まったくオープンソースに関わっていない」は4%となっている。また、回答者の88%が「オープンソースによって組織のイノベーションが加速する」ことに(強く、またはある程度)同意しており、オープンソースという多様な開発者から構成されるコミュニティドリブンなアプローチが開発者から広く支持されていることがうかがえる。
“オープンソースイベント参加”がスキルアップの鍵
本レポートで興味深い結果のひとつが、開発者がスキルアップや業界知識の獲得の手段として「オープンソースイベントへの参加」を重視している点だ。回答者のほとんどが自身の既存のスキルを向上させ、新規のスキルを習得し、業界の最新知識を取り入れ、さらに他の専門家とつながることをキャリア形成における重要な手段として位置づけているが、そのためのアクティビティとして「オープンソースイベントへの参加」を重要とした回答者が72%に上っており、一方で「業界団体やベンダが主催する展示会」は46%にとどまっている。また、オープンソースイベントへの参加者を重要視する開発者は増加傾向にあり、過去3年間でこれらのイベントの重要性が「大幅に増加した」「やや増加した」と回答したのは52%、対象的にベンダ主催のイベントに対しては48%が「(重要性に)変化なし」と回答している。
開発者がオープンソースイベントに参加して得られる価値として挙げているのは「モチベーション」「インスピレーション」「スキルの伝達」「ベストプラクティス」「コミュニティ開発」「楽しみ」「ネットワーキング」など多岐に渡っており、オープンソースへのより深い関与を促進する手段として効果的であることがわかる。とくに「インスピレーションとモチベーションを見つけること」は63%、「ネットワーキングの機会」は53%が高い価値または非常に高い価値があると評価しており、オープンソースイベントで得られる新しい知識と人脈を今後のキャリア形成につなげようとする傾向があらわれている。なお、回答者の間でもっとも人気の高いイベントは「KubeCon/CloudNativeCon」(40%)で、つづいて「Open Source Summits」(27%)、「PyCon」(15%)であった。
レポートではオープンソースイベント参加者の声として「自分の中でインスピレーションの火花が散るのを感じた。セッションのあと、勇気を出してパネリストのひとりに近づき、会話が始まり、いつの間にか連絡先や将来のコラボレーションのアイデアを交換していた」「KubeCon Americasに参加して、オープンソースこそが唯一の方法であると心の底から確信した」「自分の学習と成長を自分のものにし、プロジェクトの所有権をもち、革命を起こし、組織内の問題を解決する自信を得た」といったポジティブなコメントが紹介されている。
一方で本調査では時間やコスト、地理的条件が障壁となってこうしたイベントに参加できない開発者も少なくないという課題も浮き彫りになっており、とくに地理的条件が障害となってオープンソースイベントに参加できないと回答したのは48%に上る。レポートではこれらの課題の解決に向けてアクセシビリティの向上の必要性を強調している。
本レポートの執筆陣のひとりであるIntelのオープンエコシステム担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャ Arun Guptaは、レポートの序文で以下のように述べている。
オープンソースの背後にいる人々に会うのに最適な場所はオープンソース開発者イベントだ。私は過去数十年間に何百ものそのようなイベントに参加してきた。これらのイベントを通じて、世界中の何千人もの熱心なユーザーや貢献者とつながることができた。
(~中略~)廊下での偶然のアイデア交換は、人々が直面している現実世界の課題、まだ文書化されていない革新的なソリューション、コミュニティ内で出現している新しいトレンドについて学ぶためにも重要だ。これらのカジュアルな会話は、多くの場合、新しいコラボレーション、新鮮な視点、オープンソース開発のニュアンスに関するより深い洞察につながる。最も有意義なつながりや画期的なアイデアのいくつかは、これらの計画されていない自然な瞬間に生まれるものだ。
キャリア形成の場として、そして開発者ネットワーキングによるイノベーション誕生の場として、オープンソースイベントの重要性は今後もますます高まることが定量化されたかたちで裏付けられたレポートといえそうだ。