3DP ジャングル

3Dプリント素材の弾性を利用する

弾性とは素材が外部からの力によって変形させられ、それがもとの形状に戻ろうとする性質のことを言います。たとえば薄目の木材などに力を加えるとしなりますが、またもとの形に戻ろうとします。これが弾性です。

プラスチック製品ですとあまり形が変わるイメージがないかもしれませんが、実はプラスチック素材で作られた部品もみなさんが思っている以上に変形するため意外と様々な用途があります。また3Dプリントする材質で曲げられるものというとTPU[1]のような素材を思い浮かべがちですが、実はPLA[2]やPET-G[3]などであれば十分素材の弾性を利用することが可能です。

スナップフィット部品

素材の弾性を利用して、ふたつの部品を組み合わせるような仕組みをスナップフィット部品と呼びます。みなさんもきっと家にプラスチック製のコンテナ・容器などがあると思いますが、これらの蓋をパチっと留める仕組みはスナップフィットの一種です。

3Dプリンタでもこのような容器を作成可能です。以下の写真は私が作ったネジなどを収納するための箱です。蓋をしめようとすると本来は箱の留め具部分が反対側にぶつかってしまうところなのですが、留め具が薄くなっているおかげで少しだけしなり、うまく穴部分にはめられるようになっています。

このように3Dプリント部品で弾性を使うためには変形してほしい箇所に必要な分(距離)だけのスペースをあけ、かつその部分を変形する方向に薄くデザインします。それによって、薄い部分が変形可能になります。

また次節で軽く触れますが、変形する部分をプリントする方向には注意しましょう。可能な限り変形する方向とプリントレイヤの向きが垂直に交わるようにするのがベストです。また変形部分に強度がほしい場合はインフィル設定を調整し、通常のプリントで空洞になってしまう部分の割合を変えましょう。

サイドリリースバックル

もうひとつ我々の生活に密着しているものとしてサイドリリースバックルがあげられます。サイドリリースバックルとは、リュックやバックパックなどのストラップをつなげるために使う部品です。みなさんの家にもひとつやふたつは必ずあるのではないでしょうか。

このようなバックルはオス(黄色)とメス(赤)があり、オス側のロック機構(左右のアーム)のでっぱりがメス側の縁にひっかかることによってメス側が抜けるのをふせぎます。

このメカニズムが弾性を使うのはオス側のアーム部分です。以下の断面図で見るとわかりやすいですが、メス側のアームはまっすぐな状態でプリントされていますが、メス側のガイド(メス側の斜めになっている部分)にアームが押し込まれると、アームはまっすぐな状態に耐え切れず内側に曲がります。アームにも傾斜があるのはアームが押し込まれる際に最初は抵抗が少ない状態にするためです。でっぱり部分はどうしても厚みが必要になってしまうので、これを押し込み始めたタイミングでは抵抗を少なくして入れやすくしているわけです。

アームが完全に押し込まれるとメス側のガイドがない部分に到達しますので、アームは弾性によって元に戻ろうとし、最終的には抜けないような状態で固定されます。バックルを抜くには左右からアームを押し込みます。これによりオス・メスがひっかかっていた部分がはずれ、アームはガイドのあるほうに戻り、抜けるようになるわけです。

一般的に利用されているサイドリリースバックルは微妙に3Dプリンティングしにくい形になっているため、これをFDM形式でプリントするには少し工夫が必要です。まずオス側は必ず薄い面をプリントベッドにつけてプリントしなければいけません。第6回のオーバーハングのプリン可能・不可能なオーバーハングの断面図を見ていただくと分かりやすいのですが、レイヤにたいして横からの力には弱いため、それを回避しないとアームが曲がる時に耐え切れずに折れてしまいます。

このように薄い面をベッドにつけてサポート無しでプリントしたい場合は片面を平たくする必要があります。以下の図でオス部品の上にきている面をプリントベッドにつけてプリントする形です。このため、オス部品はメス部品より薄くなっているのがわかるかと思います。

またメス側の部品もブリッジを意識して利用していたり、サポートが作れないパーツは思い切って片面にしかデザインしなかったりと、3Dプリンティング用の最適化を行っています。

バネを利用したラッチ

プラスチックの弾性を利用して3Dプリンタで簡単なバネを出力することも可能です。ここではサンプルとしてラッチ(留め具)の一種を紹介します。

写真で紹介しているラッチは、内部機構をわかりやすくするためにオープンな状態になっています。この機構では押し込み棒が左右のバネを押し込むことによりロック部分(黄色いバネの三角部分)を超えると左右のバネが戻り、押し込み棒が固定されます。この状態になれば、押し込み棒を抜くことはできません。

バネ部分は以下のように単純に板状の部品を曲げるように折っていっただけのものです。バネ部分の厚さ、一折ごとの幅を調整することによってバネの強さを調整できます。このモデルの場合はバネ部分の厚さ1.5mm、一折ごとに5mm間隔で作っています。全体の高さは15mmです。

ラッチのロックを解除するには再度左右のバネを押し込む必要があるため、押し込み棒とは別の部品が必要となります。それが押し込み棒と一緒についている赤い部品で、ロックされている状態で赤い部品を押し込むことにより左右のバネが押し込まれ、またロック部分が動かせるようになります。

ただ、それだけだとロックが気持ちよくはずれないので、押し込み棒の先にもバネがついています。こちらのバネは押し込み棒を元に戻すために存在していて、赤い部品によって左右のバネが押し込まれると棒が押し戻される形になります。

今回紹介したように、3Dプリンタで出力するプラスチック素材はその見かけ以上に弾性があり、それを利用した様々な工夫が可能です。

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